天たつと私
vol.02
変化に挑む企業が大切にしている
「伝統」と「福井らしさ」とは。
変化に挑む企業が大切にしている
「伝統」と「福井らしさ」とは。
ナカテックグループ
代表取締役
中山浩行様
株式会社天たつ
十一代目店主
代表取締役社長
天野準一
2016.11.14

伝統と事業拡大の間で変化の道を選ぶ。

天野 本日お話しできますこと、大変楽しみにしていました。もともと繊維産業の機械製造からスタートし、その後原子力関係やビルメンテナンス、現在は人材派遣なども手がけておられますが、どういう進化を経てこられたのでしょうか。

 

中山 私は2代目ですが、もともとは父が始めた鉄工所から会社がスタートしました。福井は繊維産地で、もともと染色する機械の設計や製造を行っていましたが、化学繊維ができたり消費者や社会構造の変化だったりと、さまざまな理由で繊維業界も変化していったんです。それなら我々も繊維産業から軸足を変える必要があると思い、方向転換していきました。

 

天野 そこで原子力産業に着目したのはどのような理由だったのですか?

 

中山 30~40年前の嶺北地方の工業出荷高は6,000億円~7,000億円程度で、県外資本が入ってようやく1兆円に届くという状況。福井の産業を見渡すと、繊維が斜陽化しつつあり、原子力産業が実は重要な役割を担いつつありました。会社の今後を考えると、新たなビジネスシーンに飛び込まざるをえない環境があったのです。

 

天野 そこから今では9つのグループ会社を展開するまでに事業を拡大されていますが、変化を選ぶ際に迷いはなかったのでしょうか?

 

中山 当然、「変えていきたい自分」と「変えてはいけない自分」の狭間で迷うことはありました。私は小さい時から鉄工職人として育っているから職人に憧れはありますが、憧れだけで商売はできません。そこで「伝統」と「会社の繁栄」は分けて考えようと思ったんです。私の心の中では「うちは鉄工所だ」という思いをずっと持っていますが、変化が必要な時には「鉄工所ではない」とアイデンティティを否定する。その繰り返しでここまできました。

 

天野 私は今11代目なのですが、先代が続けてきたことから方向転換するにはとても勇気がいります。中山さんのお話はとても興味深いです。

 

中山 事業というものは、変えていいことと変えてはいけないことがあると思います。どれくらいの比率で先代が作った伝統を受け継ぐか。天たつさんは食文化を扱っている商売なので、変化を選ぶか否かの選択はより難しいですよね。天野さんの悩みはよく分かります。

歴史の中に今の私たちへのヒントが隠されている。

 

天野 「今が変化のチャンスだ!」と見極める方法などはあるのでしょうか?

 

中山 私は3つのポイントがあると思っています。それは、生い立ち、歴史、産業史を見つめること。それをもとに仮説を立てて未来を見つめていけば、大きく世の中の流れからずれることはないと考えています。

 

例えば、私は江戸時代に黒船がやってきた時のことを社員によく話すんです。変わりたいと思っているけど、自分で方向性を見つけて変われる人は少ない。でも外的要因が思わぬ変化のチャンスとなることもあると。日本が黒船によって文明が開いていった歴史は、まさに会社の変化にも通じるところがあります。歴史を読み解いていくと、必ずどこかに分岐点があり、今の私たちへのヒントが隠されているなと感じることが多いですね。

社員たちから生まれる
新たな事業アイデア。

天野 大変興味深いです。中山さんのそのようなお考えを社員や幹部に浸透させるために工夫されていることはあるのでしょうか?

 

中山 私は社員たちとよく旅行するんですよ。

 

天野 旅行ですか。

 

中山 旅行といってもひたすら歴史をめぐる旅。7,8人が面白がってついてきてくれるのですが、車中では経営や実務的なマーケットの話をしながら「あの歴史ではこうだったから、現代ではこう活かせるかも」と話しているんです。

 

天野 会社で会議をするより濃い時間や関係性を築けそうですね。

 

中山 そうなんです。話の中で「これはもしかするとビジネスになるかもしれない」「福祉もやってみよう」とか「それなら化学も、IT産業もやってみよう」とアイデアがどんどん出てくるんです。一つ屋根の下の経営では、上司や部長、社長を超えるわけにはいかないので縦の組織が出てしまうものですが、新たな事業を創出し会社を横展開させていくことで、社員の将来性にとってプラスになることもあるんですよ。

 

天野 では「これやってみようか」と言った発案者は、例えばそのまま社長になったりすることも?

 

中山 もちろんあります。上の立場より現場が向いている人もいれば、逆に現場はわからないけど意思決定とアイデアが豊富なまとめ役もいます。そんな社員に「じゃあ会社をやってみるか?」って聞くと、意外とできちゃったりね。会社とともに社員にも常に変化を促していくのが我が社のスタイルなんですよ。社長も常務も「やっちゃいましょうよ、会社作っちゃいましょうよ」って(笑)。

人々が共生できる社会を
目指して。

 

天野 会社内での起業が増えることで、ますます新たな産業が広がっていきますね。

 

中山 そうですね。しかし一方で、より早いもの、よりサービスが良いものを追い求めている世の中に対して「本当にこれでいいのか?」を立ち戻ることも必要だと思っています。要はバランスです。さまざまな立場の人たちが生きている社会のなかで、どれだけ世の中が新しくなっても、共生できる社会やビジネスがなければ意味をなさないのではないかと。だから、今の事業とはまったく異なりますが、いずれは障がい者支援なども手がけられたらと思っているんです。

 

天野 中山さんのように社会や産業そのものを変えていこうとする原動力はどこから生まれたものなのでしょうか?

 

中山 自分の手がけた事業によって人やアイデアなどさまざまなものを受け取ることができるようになったからこそ、今度は社会の変化を生み出したいと、どこかで目覚めたんでしょうね。もともと自分のなかにそのような考えがあったのかもしれませんし、出会った人によって変化してきたのかもしれません。

たとえ小さくても世の中に必要だなと感じた自然派生したことをどんどん事業化し、その事業で社会に貢献することが私のミッション。原点は鉄工所なので、やはり自動化する機械を作ったり、ものを作り上げてみたり、というのは楽しいですが、それを使って世の中が変化していく姿を見る方がもっと楽しみなんですよね。

手土産で選ぶのは
「福井のカラー」がわかるもの。

天野 今回は中山さんの手土産についても伺いたいと思っています。

 

中山 手土産ですか。福井の会社なので、選ぶ時は福井のカラーが出せるよう意識しますね。例えば、菓子なら羽二重餅、お酒好きなら、魚やカニ、ワカメなどというように。

 

天野 贈り物はやはり食べ物が多いですか?

 

中山 食べ物を選ぶことは多いですね。値段や種類によってさまざまな商品がありますが、カニや汐うになど高級感のあるものは「せっかくもらったんだから早いうちに自分たちで食べよう」と思ってもらえますよね。誰かにおすそ分けするタイプの商品とは違い、即効性がある手土産だなと思っています。

 

天野 天たつの汐うにを知ったのはいつ頃でしょうか?

 

中山 小さい時から天たつがあったことは知っていました。大人になって手土産を持っていく機会には、父親から天たつをすすめられたこともあります。酒屋さんと取引があったのですが、酒を持っていくわけにはいかないので、汐うになどを持っていった記憶がありますね。

 

天野 天たつでは、酒や羽二重餅などを持ち込んでくださったお客さまには一緒に箱詰めするサービスもやっています。

 

中山 その詰め合わせは、うちでも利用させてもらったことがあります。三重県のお客さんに送る時だったかな。ラッキョウや酒、ワカメなどを詰め合わせて。お酒が好きな方だったので「私の好みが全部入ってる」とすごく喜んでくださいました。

 

天野 ありがとうございます。手土産は直接手渡しされることが多いですか?

 

中山 そうですね。大事な品物を郵送することはありません。特に天たつの品物を郵送するのは抵抗があるので、直接手渡ししたいですね。

 

天野 そう言っていただけて嬉しいです。手土産はビジネスのシーンでも重要な役割をはたすことも多いと思うのですが、意識されていることはありますか?

 

中山 特に難しいことは考えていないですね。ビジネスシーンでの手土産は取引につながることもあるのかもしれませんが、私の場合はどちらかというと、この人とつながりたいとか、お近づきになりたいという意味合いの方が強いと思っています。その先に取引、利益ということも考えなくはないですが、個人的に渡すのであれば「福井の中山さんからもらった」と記憶に残ることの方が価値があるかなと思っています。

 

天野 福井らしさを大切にされているとのことですが、汐うにはどういったシーンで選ばれているのでしょうか。

 

中山 飽食の時代ということもあり、食べきりサイズが好ましいという声はエグゼクティブからよく聞くので、汐うにのサイズ感や高級感は大変気に入っています。そして何よりも、天たつの200年以上にわたる伝統や信用が一番の価値だと思い選んでいますので、大事なお客さまにこそ手渡したいですね。

うちも、父親の先祖が結城秀康に仕えていた家系の筋なので、これからも「福井の伝統」を大事にしながら、手土産にも福井らしさを受け継いでいる物を選びたいと思っています。

PROFILE
ナカテックグループ
代表取締役
中山浩行様
1962年5月16日生まれ。
1991年 入社。
2003年 ナカテックグループ 代表取締役社長就任。
 
趣味 温泉、旅行、車
座右の銘 成長し合える文化を創り、成長する事を楽しみとする
1962年5月16日生まれ。
1991年
入社。
2003年
ナカテックグループ 代表取締役社長就任。
 
趣味
温泉、旅行、車

座右の銘
成長し合える文化を創り、成長する事を楽しみとする
役職名は取材当時のものです。

お知らせ