天たつと私
vol.04
本物の味は
価値のわかる人にこそ知ってもらいたい
本物の味は価値のわかる人にこそ
知ってもらいたい
第一織物株式会社
代表取締役
吉岡 隆治様
株式会社天たつ
十一代目店主
代表取締役社長
天野準一
2016.11.25

違いがわかる方に贈りたい汐うに

天野 天たつの商品は主にどのような用途でお使いいただいてるのでしょうか。

 

吉岡 天たつさんの商品はいろいろ食べていますが、よく買わせていただくのは「汐うに」。そして、「うに豆」と「もみわかめ」の3つが多いですね。旬や季節に合わせて使い分けています。 

 

用途としては圧倒的に贈答用で、経営者や役員クラスの方に贈ることがほとんどです。なぜかというと、その方々は本物の味がわかっていらっしゃるから。違いが分かる方にこそ贈りたいと思っています。親しくしているアパレルメーカーの会長には数年前から汐うにを送っていますが、毎年楽しみに待ってくださっていますね。 

 

天野 贈り物をされる時は、あらかじめどんなものがお好きかリサーチされるのでしょうか?

 

吉岡 特に調べるわけではありませんが、福井でお客様と会食していると、メニューに汐うにが出てくる時があるんです。「これは何ですか?」と尋ねるお客様に「日本三大珍味の雲丹です」とご説明すると、みなさんご存知ない方がほとんど。ウニというとみなさんムラサキウニをイメージする方が多いようですが、汐うにはバフンウニから作られることなどをご説明し、後日プレゼントします。汐うにはどういうものかわかっている方にこそ贈るもの。ですから、汐うにのことを知らない人に贈るには、非常にリスキーなプレゼントではあるんですよ。

 

天野 お贈りして、あまりお口に合わなかったというご経験もあったりしますか。

 

吉岡 初めての方に汐うにを手土産で持っていくことはありませんね。ちゃんと交流がある方で、相手の趣味や好みがわかっている方へのプレゼントにします。

 

プレゼントは相手の趣味を知らずにお渡ししても効果がありません。何かしら先に食してもらうような機会を持ってからお贈りするので、お客様の口に合わなかったということはないですね。そのような機会が持てなかった場合は、少量詰めの汐うにを用意して「小さいもので失礼かと思いますが、お好きな方とそうでない方がいらっしゃるので一度お試しください」とお渡しすることはあります。東京や大阪で会食する時に「皆さん一緒に食べてみましょうか」といった機会を設けることもありますね。

 

天野 海外に弊社の汐うにを持って行かれたことはありますか?

 

吉岡 もちろんありますよ。天たつさんの汐うにのファンはパリにもミラノにもいます。「福井に泊まった時に天たつさんに買物に行った」というミラノの方もおられました。そこで初めて自分で買って「こんなに高いんだってはじめて知った」と仰ってましたね。

物心ついた時から食卓に必ずあった汐うに

天野 社長が汐うにを初めて召し上がったのはいつでしょうか。

 

吉岡 僕が物心ついたときから、食べていましたね。安島の海女さんに知り合いがいて、夏になるといつも混ぜ物の無いすごくいい汐うにをプレゼントしてもらっていました。もちろん、その代わりにいくつか買っていたので、夏の食卓にはいつもあったんですよ。ご飯のお供にも食べたし、子どものときから海苔巻きあられに付けた汐うにが大好きで。

 

天野 海苔巻きあられですか。あれに汐うにを乗せて食べると酒に合いますね。

 

吉岡 小学校の時から酒のつまみみたいなものが好きでね。「あんまり食べると鼻血が出る」と親によく叱られたものです。要するに高いから食べさせたくなかったんでしょうね(笑)。夏は汐うにともずくっていうのが我が家の定番でした。

 

天野 舌の記憶といいますか、思い出の中にあるわけですね。

目をつぶってもわかる味の違い。

天野 汐うにを出しているお店はいろいろありますが、他社ではなくて天たつでお買い求めいただく理由はどんなところにあるのでしょうか。

 

吉岡 「天たつ」という老舗があると知ったのは大人になってからです。1回買ってみようということで、越前仕立ての汐うにを食べてみたのですが、よその商品とは味のレベルが格段に違いましたね。 海女さんが持ってくる汐うには、ところどころ黄色いのがちょっと入ってたりして味の違うところがあるんです。でも、天たつさんのは味が均一ですごくなめらかでした。粒うに、福井産、日本産、越前仕立てとさまざまなランクがありますが、好きな人であれば目をつぶって食べてもランクが明確に分かるんじゃないかな。その分値段は高いですけどね。

こだわりを突き詰めることの大切さ

吉岡 天たつさんの粒うには品切れになることもありますよね。あれはどうしてなんですか?

 

天野 バフンウニを捕る期間がものすごく限られていることや汐うにより塩が薄い分、長く置いておけないというのもありまして、今は8月中だけで売り切る量しか作っていないんです。 また、作り人の手によってウニの品質が違うため、良い作り手からは全部仕入れさせてもらう分、価格もどうしても高くなってしまうんですね。

 

吉岡 天たつさんの汐うにがよそより高いのはそういう理由なんですね。

 

例えば、混ぜて均一化するやり方は日本の高度経済成長時代には一般的なやり方でしたが、天たつさんのビジネスには合わないですよね。いきなり工場生産に変えたからといって今までの100倍売るのは難しい。だから逆にどう細かく仕分けできるかが汐うに専門店として大事じゃないかなと思います。

 

たとえばデニム専門店も、本場のアメリカでは形・色・サイズなど細分化されています。高級な店であればあるほど細分化されて、ぴったり合うわけですよ。日本でもだいぶそのような志向の方が増えてきましたけどね。

 

天野 なるほど、汐うにも産地や作り手によってしっかりブランディングすることが大事だと。

 

吉岡 そうなんですよ。こだわる人はそれだけの対価を払ってでもこだわります。我々の生地も中国で作ったものと比べると、おそらく3倍ぐらいは値段が違うはずです。世界のトップブランドはそのちょっとした差を選ぶわけです。そのこだわりはすごく大事だと思いますね。

  

「天たつ」さんも老舗のブランドがあるから、そこは誰も真似できないでしょう。大きな財産を先祖からいただいてるんだから。ウニと旬の食材でからめてたものや、厳選した汐うにと並んで新しい商品など、これからも名に恥じない商品づくりを期待しています。

 

天野 貴重なお話をいただきありがとうございました。新たな商品ができた際にはぜひご報告させていただきます。

PROFILE
第一織物株式会社
代表取締役
吉岡隆治様
 
役職名は取材当時のものです。

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