一口で伝わる、その土地のウニの味|九州 熊本県 天草

2025.07.29

-お話を伺った方-
川井 様

 

 

浅瀬か深場か、漁場とウニの関係が味を分ける

 

――天野
天草(あまくさ)ではムラサキウニ、ガンガゼ、アカウニも獲れるんですね。私は今、ウニの産地巡りとして九州を回っていて、2024年は北海道を訪ねました。やっぱり浜ごとにウニの味が全然違います。理由はやはり、食べているものの違いかと思いますが、天草のムラサキウニの味の特徴は、どのようなものでしょう?

 

――川井様
個人的な感想ですが、ムラサキウニは「天草のウニ解禁」として売り出し中で、粒は小さく、口に入れるとふわっと軽く、すっと消えるような味わいです。アカウニとかガンガゼに比べると、どっしりとした重みはなくて、舌の上でも風味が濃厚というより軽い感じ。味の違いは、やっぱり食べている海藻の影響が大きいと思います。

 

私が一番美味しいと思うのは、洗いすぎていない、自然に近い状態のウニ。殻やトゲなんかをきれいにしすぎていない、海の中にあるような状態のムラサキウニを口に入れると、スーッとすぐになくなる。そんな、数秒くらいで味わえるのが美味しいムラサキウニだと思います。

 

――天野
地域によってウニの味が違うのは、餌の違いが大きいですよね。具体的に、海藻にはどんな変化がありますか?

 

――川井様
藻場再生の事業が進んでいることもあり、以前は磯焼けで、海底がコンクリートのようになっていて、ワカメがほとんどなく、アカモクばかりでした。でも今年はワカメがすごく増えて、葉も若くてよく育ってます。サザエがどこにいるか分からんぐらいです。おそらく、海水温の上昇が遅れたのが影響していると思います。

 

その違いが「地区ごと」と言えるのか、「その年の水温や環境の違い」って見たほうがいいのか、あんまり一概に言えないかなと思います。例えば、潮の流れや漁の仕方でもウニの味が変わります。漁場も、浅瀬と深場で違いが出ます。3メートル以上潜る人もいれば、浅瀬で腰くらいの深さで獲る人もいます。実際、同じ日に浅瀬と深場のウニを並べると「今日のは甘いね」とか、「全然違うね」と感じることはよくあります。

 

――天野
浅瀬と深場でウニに違いはあるのでしょうか?

 

――川井様
ありますよ、全然違います。まず、サイズが違う。深場のウニは身が大きくて、浅瀬のウニは小さいですね。今の状況だと特に小さくて、感覚的に言えば深場のウニの3分の1ほどの大きさかな。

 

――天野
それは海藻が少ないからでしょうか?

 

――川井様
ムラサキウニはあまり深くまでは行かないですけど、アカウニは深場に行くほどサイズが大きくなります。大きければいいってわけじゃないですけど、やっぱり大きいのが獲れるから深場に行く漁師さんは多いです。

 

水深3〜4メートルくらいのところにはワカメが多くて、それより深いところにはカジメが生えています。長島や鹿児島のほうでも同じかな。何かは食べてますが、正直、何を食べてるかまではよく分からないんです。

 

――天野
カジメは減少しているところが多いとお聞きしています。

 

――川井様
確かに減ってはいますが、一概には言えません。「今週は多かった」という人もいれば、「先週は全然なかった」という話もある。月単位ではなく、2週間くらいでも状況がガラッと変わります。今年もどうなるかは、実際に海に出てみないと分かりませんね。

 

 

天草の海に広がる再生の兆し

 

――天野
やはり、そもそも海の様子が全然違いますよね。先ほど白鶴(しらつる)側からずっと橋を渡ってきたのですが、波の立ち方もまるで違いました。右側と左側で見ても違いますし、外洋側に出ればまた波の出方が変わる。きっと魚の種類も本当に多様なんだろうなと感じました。

 

ウニにしても、そういった環境の違いから大きく影響を受けているのだと思います。実際、隣の浜に行くだけでも味が変わるという話をよく聞いていましたが、今回現地を回ってみて「本当にそうなんだな」と実感しました。結局、その土地ならではの味わいというのは、そこに生えている海藻の種類の違いから来ているんでしょうね。こちらの地域で、ウニが食べている海藻にはどういったものがあるのか、とても興味があります。

 

――川井様
今年はワカメがすごく多いですね。ワカメの下にはムラサキウニがたくさんいるのですが、身の入り自体はあまり良くないようです。

 

――天野
ワカメを食べるとウニの味がよくなる、よく聞きますよね。ワカメは一年草なので毎年生えてきますけど、カジメのような多年草は一度減ってしまうと、何年か経たないと戻ってこない。そう考えると、今年ワカメが豊富というのは、環境としては良い兆しかもしれませんね。

 

――川井様
そうですね。このあたりはクロメも多いと思います。自分たちの漁場に自然に生えているのか、それとも誰かが手を加えて育てているのか、正直よく分かりませんが、地元では「クロメ丼」にして食べたりもしています。

 

――天野
クロメは、少し深いところに生える海藻ですよね。潜っても4〜5メートル、深いところだと6メートルくらいまで行かないと採れないはずです。

 

それに加えて、そうした豊かな環境でもワカメが増えているというのは、すごく良い傾向ですね。この海は本当に豊かだと感じます。ところで、ガンガゼは多いですか?

 

――川井様
最近はガンガゼの駆除も始めましたよ。港の近くでは今もよく見かけますよ。

 

――天野
ウニは海藻を食べて育ちますからね。海藻がしっかり茂っていないと、ガンガゼも身が入らないんですよね。

 

 

季節や扱い方、収穫タイミングで変わるウニの味

 

――天野
九州のウニの味が少し変わったと感じたことがあって。やはり季節によって味が変わるんでしょうかね。

 

――川井様
扱い方ひとつでウニの味がまったく変わるんですよ。まず獲れる場所でも違うし、さらに扱っている人によっても全然違います。今日、市場に出ている中で、うちのウニが一番きれいに見えると思います。ある人が扱っているウニは、粒も大きいし、色もきれい。味も良いと思います。その方がウニをすごく丁寧に扱われているんですよ。

 

収穫から1時間以内にしっかりと水を切れるかどうかで、歩留まりも味も全然違ってきます。ただ、今はウニの「走り」の時期なので、みんな「早く手に入れたい」と我先に買うんです。でも、ウニがたくさん出回ってくると、みんなきちんと中身を見て、それに応じて値段を決めるようになるんですよ。

 

――天野
時期の最初の「走り」の頃と、終わりのほうでは、苦味が出たり味が変わってきたりすると思うんですが、やっぱり「走り」の方が美味しいものなんでしょうか?

 

――川井様
私は自分ではあまりウニを食べないので断言はできないんですけど、個人的な印象で言うと、「走り」よりも、ちょうど中間くらいで、身がふっくらしてきた頃の方が、味が濃いイメージがありますね。甘みも強く感じます。

 

――天野
漁の時期や扱い方ひとつで味が変わるということ、また海藻やガンガゼなど周辺環境の変化がウニの身入りにまで影響を及ぼすというお話はとても勉強になりました。現場で日々ウニと向き合っているからこそのリアルな視点や言葉に、ものづくりに携わる者として共感する部分も多かったです。お客様へのご案内にも活かしていきたいと感じました。いろいろお聞かせくださり、大変勉強になりました。

 

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