-お話を伺った方-
尾塚 様

海藻とウニを両立して育てる難しさ
――尾塚様
ムラサキウニは海藻をたくさん食べます。そこで阿久根(あくね)では、増えすぎたウニを海藻が生えている場所に移植しています。そうすることで年間を通してウニの身入りが良くなります。海藻が生えていない場所のウニを、生えている場所へウニを移植する循環型の取り組みを20年ほど前から行っています。
――天野
その海藻は今でも豊かに生えていますか?
――尾塚様
残念ながら近年は海藻が少ない状況なので、海藻を再生させるためのプロジェクトを立ち上げ、研究を進めています。海水温が高く、なかなか海藻が根付かないのが現状です。ただ、今年は海水温がかなり下がっているので、良い兆候だと感じています。潜水士に聞いたところ、海藻がそこそこ生え始めているという話でした。
――天野
海藻が生えている場所にウニを移植させるということは、海藻が生えている場所はまだあるということでしょうか? 魚による食害もあると思います。
――尾塚様
はい、海藻が生えている場所のウニにはしっかり身が入っています。逆に海藻がない場所のウニは全く身が入っていません。今は増えすぎたウニを間引いています。駆除しないと海藻が生えてこない状態になってしまいます。駆除して海藻が生えるようにしているのですが、バランスをとるのが難しいのが現状ですね。
魚の食害は、ワカメなどの養殖をしている人たちにとっては大きな問題です。魚は海藻の葉の部分を食べるだけなので根までは食べませんが、ウニは根っこから海藻を食べてしまうので、海底の岩が真っ白になり、海藻が生えなくなってしまうんです。
――天野
浜から見えるくらい豊かに生い茂っていて、海藻を守ろうという活動をされている方がいらっしゃるとお聞きしました。
――尾塚様
天草には「シーベジタブル」という海藻養殖のスペシャリストたちがいるんです。天草では彼らとチームを組み、この地域で海藻を増やす取り組みを行っているようです。上から吊るす方法が良いということで、海藻が下の方に伸びていくようにしています。
――天野
福井では海水温が上がってしまい、いつも生えている海藻が生えなくなってしまいました。ウニが海藻を食べてしまう磯焼け状態は福井ではそこまで多くないのですが、海藻が生えなくなっているのが現状です。海藻豊かな磯を回復させないと、ウニも復活しないだろうと考えています。

ウニの品質探求と陸上養殖の可能性
――天野
ウニの味が獲れる浜によって違うのは、ウニが何を食べるかによって違うのだと考えています。海藻の種類や、川の水、海岸の形状(岩場や砂場)なども影響するようです。この浜ではどのような海藻を食べているウニがどのような味わいになるのかを、一つ一つお話を伺いながら確認し、勉強させてもらっています。ウニがどんどん減ってきているのは日本全国でそうだと思います。これからは、育てる漁業も一緒に考えていきたいと思っております。
――尾塚様
育てる漁業で言えば、私たちが考えているのは陸上養殖です。今、一番取り組むべきはそれだと思っています。陸上養殖でウニをたくさん持っていき、そこで海藻が生えてくれれば、本当にまた磯もすぐに戻るだろうと考えているんです。
――天野
そうなると、今度は餌の問題が出てくると思います。何をウニに食べさせるか…。
――尾塚様
養殖なので、そこの海藻を食べさせるわけにはいきませんから、どこかから持ってきて何を食べさせるかということになりますね。
――天野
私も全く同じ考えで、養殖には手間もコストもかかりますよね。養殖、つまり育てる漁業は、天然を超える理想の味わいが作れないと面白くないというか、手間をかけるのですから天然の代替ではなく、理想のウニを育てることが養殖だろうと思っています。そう考えた時に、何をウニに食べさせればどのような味になるかが分かれば、それが本当に叶うのではないかと。
実は去年から日本中を回っていまして、去年は北海道を一周しました。行く先々で海水を飲みながら味を確かめるのですが、九州でも海水の味が全然違うんです。この後、浜の方に行って海水を飲んでみようと思っていますが、本当に味が違いますね。
毎回少し舐めて飲んでいるのですが。海の味というのは、ウニの味わいの要素として、やはり食べるものと、あともう一つ、海岸の形状もかなり影響があると思っています。岩場と砂場では、やはり全然違うんですよね。
――尾塚様
この辺りは岩場がものすごく多いんです。もっとみんなに大事にしてほしいのですが、獲ることに一生懸命で、育てるということをあまりしないので、もったいないと思います。
――天野
すぐ近くの浜でも海岸の形状によって場所ごとの味わいの違いが、ウニに影響しますね。砂場近くの岩礁に住んでいるウニだと、あまり磯っぽい味がしないといいますか、おそらくですが、食べているもの、海流、陸から流れてくる川の水や伏流水なども影響しているのではないでしょうか。
――尾塚様
川の水が流れ込んでいる場所の近くのウニは、さっぱりした味わいになります。この辺りのウニは、すごくコクがあって甘いんです。こんなにすぐ近くの場所なのに、食べ比べてみると全然違いますね。
――天野
ちょっとした要素、例えば川が近いか離れているか、生えている海藻の種類などが分かれば、本当においしいウニを育てられると私は考えています。そうしたことを研究されている先生や学者がいなかったので、もう自分で勉強しようと動いています。
「天たつ」は今年で創業221年目になりますが、この先も日本の美味しいウニ文化を残そうと思うと、天然ものだけでは難しいだろうと考えています。地域ごとの味わいの多様性はウニの魅力だと感じています。そうなると、やはり餌の研究をしていかなければならないと思っています。
――尾塚様
天野社長がそのような研究をされているのは素晴らしいと思います。

密かに知られる阿久根のウニ
――尾塚様
私どものウニも召し上がってみてください。ムラサキウニはまさに今が旬なんですよ。小ぶりですが、コクがあります。ぜひ試食してください。これを塩水につけると、甘みがもっと加わりますよ。
――天野
(試食をして)口の中にふわっと甘みが広がってきますね。うん、美味しいです。これは私の主観かもしれませんが、シーズン初めの頃の方が味が良くて濃いです。後半になって産卵を迎え始めると苦味が出てしまうことがありますが、その前の少し大きくなっていく時期は、なんとなく味わいとして、えぐみが出たり、味が薄くなったりすることがある気がします。
――尾塚様
こちらのウニはえぐみはなく、産卵の時期でもあまりえぐみはありません。福岡の魚市場では、「阿久根のウニ」と言うと、買って帰る人が多いようです。私だけが「小さいけど美味しい」と思っているのかなと思っていました。
――天野
阿久根では、海藻とウニの関係を深く理解したうえでウニを移植するという循環型の取り組みが20年前から行われていることを初めて知りました。ウニの身入りと海藻の状態が密接に関係していること、餌が育つ環境をいかに整えるかが、ウニを育てる鍵になると思っています。今日はお話ありがとうございました。
2025年3月訪問



