―お話を伺った方―
赤木 様
壱岐の湾に育まれる爽やかな香りの秘密
――天野
数年前に赤木さんからいただいた壱岐(いき)のムラサキウニの味が忘れられずにいます。私が昔食べた、非常に香りのよいウニとよく似ていました。そのときにおいしさの理由を伺ったところ、「湾の中で獲れたものだから」とおっしゃっていた記憶があります。
――赤木様
お問い合わせいただいたこと、覚えています。海の状況によって、ウニの味はかなり左右されていまして、特に独特の海藻が多く生える年があると、海藻の影響で味が変わってくるんです。その海藻があると、ウニに爽やかな風味が出るというか…表現が難しいですが、爽やかな味といいますか。どんな味わいでしたか?
――天野
香りがとても強かったですね。
――赤木様
その味の違いは、海女さんが獲るウニのエリアにもよるかもしれません。海女さんが潜っていい場所と、そうでない場所が決まっていて、それぞれ決まっているんですよ。
漁場に生えている海藻によっても、ウニの味は変わります。浜焼け(磯焼け)などで海藻の状況も変わってはいますが、ご存じの通りウニは何でも食べるので、餌を求めて移動していくんです。
海女さんたちは、丘から降りて潜る方と、船で沖まで出て潜る方がいらっしゃいます。沖に出るとまた少し海藻の種類も変わってくるんですね。内湾の海藻と、外海の海藻ではやはり違いがあります。
磯船に5~6人の海女さんが乗り、船頭さんが沖の漁場まで連れて行きます。1回に1時間半潜って漁をし、船の上でたき火をして体を温め、もう一度潜ります。私が購入しているのは、船で行く海女さんのウニなので、それほど味は変わらないはずなんですが、去年か一昨年くらいに、変わった海藻が繁殖してしまい、その時は少し味に良い変化がありましたね。
――天野
ウニを獲る場所、獲る方法が違うということを初めて知りました。それではウニが食べている海藻の種類はご存じでしょうか? 日本中にアオサやワカメといった同じような海藻が生えている一方で、ウニは何でも食べています。その地域に生えている海藻群のブレンドの割合や種類によって、その地域のウニの味わいが決まると考えています。
――赤木様
ホンダワラも少ないし、昔はウニはワカメを食べていたんだと。ワカメの中を泳いでいる海女さんの風景を見たことがあるでしょう? ワカメを食べるとウニが甘くなるって言いますもんね。
養殖のウニもありますが、やはりしっかりした海藻を食べさせた天然のウニの方が、断然美味しくなります。キャベツなどを与えることもあると聞きますが、あまりよくないと思います。
――天野
壱岐のウニ漁はどのようにされているのでしょう?
――赤木様
壱岐の八幡半島のウニ漁期は約1ヶ月間、その後は産卵期に入るため獲りません。来年のために資源を保護しています。サザエやアワビを獲って、海女さんたちはそれで生計を立てていますね。
ウニ、サザエ、アワビのために藻場再生に奮闘
――赤木様
うちのウニも召し上がってください。全くの生なので、塩やアルコールは使っておらず、殺菌海水で洗っているだけなんです。
――天野
美味しいです!
――赤木様
もちろんミョウバンを使っていませんので、こういった感じのクリーミーさになるんですけど。ウニが何を食べているか特定するのは難しいですね。一つの海藻だけでなく、いろいろなものを食べているらしいんですよ。種類よりも、さまざまな海藻を食べている方が美味しいらしい、ということですね。
海女さんたちが言うには、その海藻は、昔のようにカジメだとかそういうのがあるかというと、今はほとんど生えていないからでしょうね。岩についている藻を食べているんです。結局その「海藻」というだけでは種類が分からないですよね。岩についているものを。もし調べようと思ったら、その海藻を持っていけば専門の機関が調べてくれます。
――天野
赤木さんは海藻についても詳しいご様子です。
――赤木様
昔、私、実はこの仕事をする前は漁協に勤めていたんです。その時、藻場を増やすために、北海道産の昆布を使った養殖など、いろいろな取り組みをしていました。場所は内海湾で、北海道から取り寄せた昆布の種をロープに結束バンドで数か所止めて、それを海に沈めたり、中間くらいの深さに張ったりして育てたんです。すると、半年くらいで昆布が一気に5メートルほ…どまで成長しました。いろんな活動をしていたのも「いつかきっと磯焼け(浜焼け)が起きるだろう」と思って準備してきたんです。
ところが今度は温暖化の影響で、昆布が育たなくなってしまって…。やっぱり昆布は寒い時期じゃないと育たないし、海中にしっかり垂れないんですよね。それに加えて、イソズミが昆布を食い荒らしてしまうんです。せっかくロープに付けた種も、そこから食べられてしまう。もう本当に難しい状況です。
――天野
魚による食害があるとは驚きです。ウニが海藻を食べるか、イソズミが海藻を食べるか、という話なんですね。
――赤木様
そうです。それで海藻が消えちゃった、という感じ。ウニに聞いても教えてくれないですもん(笑)
天然を超える美味しさを実現し、育てる漁業へ
――天野
ウニが少なくなっているのは、日本中だけでなく世界規模でも同じでどんどん減っています。福井でもそうですし、北海道や九州でも減っていると思います。
弊社の話で言えば、今年で創業221年目になりますが、この先200年後までこのウニの文化を残そうと思うと、天然は天然で大切に保存しなければなりませんが、「育てる漁業」に取り組まなければならないと考えています。
現在、キャベツなどをウニに食べさせると味が青っぽくなったり水っぽくなったりすると言われますが、何を食べるかによって味わいが決まるのであれば、美味しいウニが何を食べているかが分かれば、養殖のウニでも良いものができるはずだと考えています。
福井などは冬に非常に時化(しけ)るので、なかなか海面での養殖は難しいですね。この先も美味しい日本の文化を残そうと思った時に、育てる漁業をさらにレベルアップさせなければならないと考えています。ウニが何を食べればどういう味になるのかをきちんと調べている方がいらっしゃらないので、自分で調べようと思ってやっています。
――赤木様
ウニをおいしくする餌は昆布です。絶対間違いありません。
――天野
おっしゃる通りです。ですが北海道を回って調べてみたのですが、ウニが食べているのは昆布だけではないんですよ。北海道の利尻島と礼文島のウニの味は違います。結局、そこに生えている海藻群が違うのです。
――赤木様
実は私もウニの養殖をやりたかったんですよ。先日、外洋から塩水を汲んできて、生け簀がある会社があるので、そこまで海水を引いています。陸上生け簀で養殖を試みていたのですが、海から繋いでいるパイプのようなものが嵐で壊れてしまったりして、それを修正するのにたいへんなお金がかかるんです。結局、資金不足で実現できませんでしたが、私自身もウニの養殖には非常に興味があります。そのような取り組みができたら、私もうれしいですね。
私はさまざまな場所に行って漁協や漁師さんの人たちと話すのですが、本当に獲れるものが場所によって変わってきていて、みんなで考えることはできないのかなと思っています。日本の食と海の文化自体がかなり厳しい状況なのではないかと感じています。これからは保存について考え始めないといけないのではないでしょうか。
――天野
日本の海で、美味しいウニを残したいと強く願っています。私が皆さんにお伝えできることは全てお伝えしますし、ぜひ今年の時期にもし可能であれば、外海と内海のウニの味比べをさせていただけると嬉しいです。
――赤木様
壱岐の海女さんの美味しいウニを世に出したいとずっと思っているんです。海女さんのウニが使われるのであれば、私もこれ以上ない喜びです。
――天野
ありがとうございます。私のほうで塩を振ったり、少し加工したりとさせていただきます。
――赤木様
最初の時期のウニは身がしっかりしているので流れる心配もなく、良いかと思いますよ。少し時期が遅くなると身が柔らかくなって汁が出てしまい、歩留まりも悪くなるので、最初の頃のものがおすすめです。
――天野
ウニは、旬の始まりの頃の方が良いですよね。いろいろな塩と合わせてみたいですし、どんな加工ができるか考えてみたいと思います。
――赤木様
壱岐のウニは小さいんですよ。だから北海道産のような大きいものではないので、その点はご承知おきください。天たつさんの商品にしてもらって美味しくなるのであればとても嬉しいです。
――天野
赤木さんから、海女漁のこと、ご自身でいろんな挑戦をされていることに感動しました。外海と内湾で違う味わいをみせる壱岐のウニは、本当に奥深いです。この魅力を守りながら、次の世代に美味しさを届けていきたいと強く感じました。お話、ありがとうございました。
2025年3月訪問



