壱岐の漁場の地形や漁法で海の未来を守る|九州 長崎県 壱岐

2025.07.26

―お話を伺った方―
長岡 様

 

“湾”が育む、ウニの繊細な味わい

 

 

――天野
私が扱っているのは「汐うに」という珍味です。越前福井藩のお城から製造を命じられ、3代目がこの「汐うに」を考案し、徳川将軍家にも献上してきました。日本三大珍味のひとつとして今も受け継いでおり、私で11代目、創業から221年になります。

 

せっかくですので、ぜひ一口味見していただきたいんですが、これはバフンウニと塩だけで作っております。ウニに塩をふりかけて、水分をしっかり抜いて凝縮しています。1個のウニからわずか1グラムしかできません。

 

福井の方でも、年々ウニが獲れなくなっておりまして、今は北海道から九州まで、バフンウニが取れる場所を全国回って仕入れています。ただ、そのバフンウニもどんどん減ってきている状況です。ですので、今後はムラサキウニやアカウニも使いながら、美味しい汐うにを作っていこうと考えています。

 

本当にこうしてご縁をいただいて、こちらのウニをいただけるようになったのはとてもありがたいことです。ところで、こちらのムラサキウニは、漁のタイミングによって、ウニの味は変わってきたりするんでしょうか?

 

――長岡様
はい。壱岐(いき)もやっぱり餌の状況によって、身入りが良かったり悪かったりしますね。漁場もかなり広くて、地形的には半島になっています。

 

――天野
そうでしたか。こちらのウニの味わいの特徴を教えてくださいますか? 実は以前、こちらのウニを瓶詰めでいただいたことがあって、それがとても美味しかったんですが、1回目と2回目でいただいたウニの味が違っていたんです。聞いてみたら、「美味しいと思った方は湾の中で獲れたもので、同じ湾ではないんですよ」と教えてもらいまして。そのとき感じたのが、「同じ場所のウニでも、漁の回によって味が違う」ということ。獲る場所によってそんなに味が変わるものなのですか?

 

――長岡様
はい、多分それは湾の影響ですね。こちらだと、岸壁に囲まれていて、湾のような地形なんですよ。そういう場所で獲れるウニは味が違ってくるんですよ。

 

――天野
なるほど。そういう地形の影響があるんですね。

 

壱岐の海でウニと海藻が直面する環境の変化

 

――天野
こちらのウニは普段どんな海藻を食べているんでしょう? 時期によって生えている海藻も変わるとは思うんですが、今の時期だとワカメとか、少し前ならアオサとか、そのあたりが多いんでしょうか。よく生えている海藻ってありますか?

 

――長岡様
ホンダワラ系の海藻だと思います。でも最近は磯焼けの影響も大きくて、砂浜がどんどん広がっています。ウニの漁が始まる前は海藻がよく茂ってるんですが、海水温が上がってしまって、切れて流されてしまうことが多いんですよ。だから最近は、海藻があまり生えていない場所が増えてきていますね。

 

――天野
確かに、ここに来る途中もすごくきれいな砂浜が広がっているなと思いました。特に青島のあたりとか、本当に美しいですよね。あの砂浜は川から砂が流れてきて広がってるんでしょうか?

 

――長岡様
そうですね。岩場も今は磯焼けの状態に近いです。まるで石灰化したように白っぽくなっているところもあります。身が入っていない時期には、駆除作業や、イスズミ(海藻類を食べる魚)の駆除なんかもやってはいるんですけど、時期によっては網にかからないこともあり、なかなか難しいですね。

 

――天野
磯焼けの影響は大きいんですね。ムラサキウニ、いわゆるクロウニも獲られているわけですけど、ウニの食害が減れば海藻も戻ってくるのかなと思いますが、魚による食害もやっぱりあるんですか?海藻はやはり以前より減っていますか?

 

――長岡様
海藻は確かに減っています。ただ駆除の効果も多少はありますよ。ワカメなんかは芽が出た時点で、イスズミが食べてしまうんです。

 

――天野
海藻が増えてくれるといいですね。ウニを獲らない地域ではウニが増えて磯焼けが進むと言いますが、ウニを獲る地域は多いので、魚だけではないでしょうけど、海水温なども影響しているのだと思います。魚の食害はよく聞きます。

 

福井だけではウニが足りないため、全国の浜のウニを扱っていますが、場所によって味がまったく違います。同じ浜でも、採れる場所によって差が出ることがあります。なぜ味が違うのかを調べてきたところ、主な理由はウニが食べる海藻の種類や状態。そして、海の地形や環境の違いも大きく影響していると感じます。実際に海水を飲みながら各地を回ってみると、浜ごとの違いがはっきり分かります。

 

――長岡様
外海と内海で潮の流れが多分違うので、そういう関係もあるのかもしれません。

 

――天野
昨日、南部のほうで海水を飲んでみたのですが、とても甘みがあって美味しかったんです。海水が美味しいというのも変な表現かもしれませんが、明らかに味が違うんですよね。一昨日から九州に入って、福岡を経由して佐賀に来たのですが、場所によって海水の味がまったく異なると感じました。私自身、これまでの経験から、海水の味わいとウニの味わいには通じるものがあると感じています。

 

壱岐の漁法と資源保護の取り組み

 

――天野
ウニの味は、海流や沿岸の地形、そして生えている海藻の種類によって決まるのではないかと考えています。天然の資源が減っている今、育てる漁業にとって「何を食べさせればどんな味になるか」を知りたいのです。キャベツなどを与えると味が落ちると感じていますし、理想のウニを育てるためには餌の研究が欠かせません。私は昨年、北海道を一周し今年はこの時期に九州を回っています。こちらのウニについて、地形や海藻と関係しているのかを知りたいのです。

 

――長岡様
壱岐ではタモではなくカギを使っています。船の上からではなく、潜水して獲るか、丘から足がつくぐらいの場所で探るような漁もしますが、上から海底を見て獲ることはありません。基本的には、海に優しい漁を心がけています。小さいウニまで獲ってしまうと、来年大きくなるウニが獲れなくなってしまいますからね。資源保護のため、潜る期間を短くしたり、ウェットスーツの着用が禁止だったりします。レオタード漁※なんです。

 

※レオタード漁:ウェットスーツを着ると、海水温が低い時期でも長時間潜ることができるため、どうしても乱獲につながりやすくなります。そこで、あえてウェットスーツを使わず、レオタード姿で漁を行うことで、寒さのために長時間の漁ができないようにし、乱獲を防ぐ目的があります。レオタードでの漁は、資源保護のための工夫です。

 

――天野
ただ漁をするだけでなく、環境を守りながら資源を育てる取り組みをされているんですね。長岡さんとのお話を通じて、海藻や磯焼けの問題がウニの品質や漁獲量に直結していることを改めて実感しました。環境の変化が海の生態系に与える影響は大きく、特に天然ウニに頼っている地域では危機感を持って向き合っていらっしゃるのだと感じました。いろいろ教えていただき、ありがとうございました。

 

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