―お話を伺った方―
呼子様

磯焼けと闘う郷ノ浦。駆除の難しさと海の変化
――天野
郷ノ浦(ごうのうら)のウニは獲れる浜によって味は違いますか?
――呼子様
そこまで変わらないですね。どの浜も漁獲量も同じくらいで味はいいと思います。ただ、昔はアカウニもたくさん獲れてたんですよ。でもここ何年も全然獲れなくなって…。郷ノ浦の方は漁期が早くムラサキウニ(クロウニ)で終わってしまうんです。だからアカウニを狙う人も、今ではほとんどいなくなりました。
――天野
資源が減ってるから、獲る人も少なくなってるんですね。ムラサキウニがたくさんいるのはいいことです。
――呼子様
そうなんですが、駆除もしないと海がきれいにならないんですよね。ムラサキウニが磯焼けの原因にもなってるんですが、駆除作業は潜水業者じゃないとできないんです。潜るのにも「何メートル以上」といった規制もあります。最近は磯焼けがひどくて、サザエがもう激減してるんですよ。アワビも本当に少なくなってきています。
――天野
磯焼けの悩みがありますが、去年くらいから海藻が少し戻ってきているっていう話を聞きました。実際のところはどうなんでしょう?
――呼子様
海藻自体は増えてきているみたいなんですよ。ある漁師さんが言ってましたけど、夏場の異常な暑さで磯が焼けて、サザエの稚貝なんかが育たなくなっているんじゃないかって。
――天野
やっぱり海水温の上昇ですよね。福井でもバフンウニの漁獲量が減ってるんです。海水温が上がりすぎて海藻も育たないし、ウニも高温の海では成長しにくい。でもムラサキウニは高水温にもある程度強いんですよね。
――呼子様
北海道のバフンウニの小さいサイズが、こちらにも昔はたくさんいたんですけど、今はやっぱりこちらでも少なくなってきています。自家消費用程度の量です。ガゼ味噌(ウニ味噌)を作るために獲る人がいるくらいで、普通の漁ではほとんどやってないですね。

壱岐のウニは芳醇。産地によって変わる味わいを形にしたい
――天野
ぜひ、天たつの「汐うに」を一度味見していただけますか。天たつが主に扱っているのは、いわゆるバフンウニなんです。私で11代目になりまして、創業から今年で221年。日本最古のウニ商と言われています。全国の産地から買い付けをして「汐うに」を作っているんです。バフンウニと塩だけで作っていて、ウニに塩を振って水分を抜き、ぎゅっと凝縮させています。かなりしっかりと水分を抜いているんですよ。
――呼子様
(試食して)結構水分があって抜けていますね。香りがすごく残ります。
――天野
この「汐うに」は、もともと私どもの製法で、江戸時代から雲丹の商いをしています。福井藩の松平というお殿様が、徳川将軍家に献上していたんです。それがきっかけで、日本三大珍味のひとつという称号をいただいて、代々この商いを続けています。
現在はバフンウニ自体が日本中で本当に少なくなってきているんです。基本的にバフンウニだけで汐うにを作っていますが、ムラサキウニやアカウニなんかも使いながら、これからもおいしいウニ作りを続けていきたいと思っています。
さきほどこちらで獲れた去年のムラサキウニを少しいただいて食べてみたんですが、すごく海藻の香りが芳醇ですね。
――呼子様
そうなんですよ。佐賀あたりで獲れるウニとはやっぱりちょっと味が違うんですよね。もうまったく別物って言えるくらい。他の産地のものとは、やっぱり違いますよ。
――天野
面白い。同じムラサキウニでも獲れる場所によって味が全然違う、バフンウニもまさにそうなんです。「汐うに」はブレンドで作っているんですよ。全国10か所くらいの違う産地のバフンウニを使っていて、それぞれ味が違うんです。それに合わせて塩も変えていますし、さらに熟成もさせています。専用の熟成庫がありまして長いものだと8年熟成、貯蔵されています。
熟成庫は温度帯が3つに分かれていて、低温の部屋はゆっくり熟成が進み、高温の部屋は早く熟成が進む。なので、それぞれの状態に合わせて使い分けながら、1番良いタイミングでブレンドして仕上げているんです。
もちろんウニの種類でも味は違いますし、同じ種類でも獲れる浜によって味が変わる。呼子さんがおっしゃっていたように、壱岐のウニも北と南で海の雰囲気が違うというお話は、すごく納得できます。この壱岐のウニの味わいも、ぜひうちのお客様に届けたいなと思っています。

漁の現場の変化、ウニが食べる海藻の謎
――天野
こちらのウニは、普段は何を食べてるんですか?海藻の種類とか、どういうものなんでしょう?
――呼子様
最近は海藻自体が生えなくなってきてて…。正直、今は何を食べてるのか、自分たちでもよく分からないんですよ。このあたりは昆布のような海藻もありますが、種類は少し異なります。そういった海藻をウニが食べているのだと思います。
一時期、陸上養殖にも挑戦しました。ただ、やはり天然と比べてウニの色が違うんです。天然のウニは黄色くて鮮やかですが、養殖は白っぽい。キャベツやミツバを餌にしていたようですが、それを食べると色が薄くなり、味も青臭くて、薄く感じました。天然の濃厚な味には及ばなかったですね。
――天野
実際、ウニの味の違いは、食べているものに大きく影響されていると実感しています。キャベツのような餌では、天然のように美味しいウニは育たない。むしろ、天然を超えるような美味しいウニをどう育てられるか——その鍵は“エサ”にあると思ってるんです。その思いで昨年から北海道を一周し、美味しく育つ海藻は何なのか。このウニの味わいは、どういう海藻を食べて作られているのか——そういうことを今、勉強しています。昨日もこの辺りの浜を歩いて観察していましたが、アオサがよく生えていましたね。
――呼子様
アオサは以前からよく見かけます。でも実は、水が“きれいすぎる”と海藻って育たないんです。逆に山からの栄養がないと、海藻も育ちにくいんだと思います。アオサもそういう場所によく生えてます。とは言え…ウニがアオサをそんなに食べているかというと…あまり食べないかもしれませんね。
そうそう、私たちは「ぶくぶく」って呼んでるんですけど、藻がモコモコ〜っと泡みたいになってるやつがあるんですよ。あれは結構食べてるみたいですね。正直、名前とか種類はよくわからないんですけど、茶色っぽいやつです。ブクブクした泡みたいな藻、それをムラサキウニはよく食べてますよ。
昔はカジメとか、昆布、ワカメなんかが多かった場所に、「ブクブクモ」って呼んでるモコモコした藻が繁殖しています。5月とか6月ごろになると、海一面にびっしり生えてきます。
――天野
ワカメとはまた少し時期がずれるんですね。その「藻」がびっしり生えてる海は、やっぱりいい環境なんでしょうね。

――天野
福井の方では海女さんは高齢化もかなり進んでいて、60代で「若手」、70代で「中堅」、80代になると「姉さん」なんて呼ばれてますけど、それでもみなさん現役で頑張ってらっしゃいます。しっかり儲かる仕事になれば、若い人たちもやるんでしょうけど…それがなかなか難しい。
非常に印象的なお話を、ありがとうございました。特に、ウニの味が何を食べているかで大きく変わるという点は、私たちが汐うにをつくるうえでも重要な視点です。また、海藻環境の変化や磯焼け、そしてヒジキなど海藻類の減少といった課題も、全国各地と共通する問題だと感じました。それでも地元の漁師さんたちが、限られた時期に集まり、海に潜って漁を続けているお話は、大きな希望になりました。
2025年3月訪問



