―お話を伺った方―
野中 様・平田 様

想いが重なる、汐うにと佐賀の塩ウニ文化
――天野
私どもでは「汐うに」を製造しています。天たつは私で11代目になり、約200年前から作り続けている伝統の品です。生ウニの水分をじっくりと抜き、ウニ1つが最終的に1グラム程度に凝縮されるまで丁寧に作っています。主にバフンウニの加工をしておりまして、九州の熊本や福岡でも取引があります。その中で佐賀のウニが美味しいと聞き、大変興味を持っておりました。
――野中様
天たつさんのバフンウニは、どちらで獲れたものを使っているんですか?
――天野
福井産のものに加えて、中国地方や九州、北海道産のウニをブレンドしています。
――平田様
(試食をして)バフンウニの味を少し塩分を強くしたような感じですね。
――野中様
この屋形石(やかたいし)あたりでも昔から塩ウニを作っているんですよ。天たつさんの汐うにのようにここまで水分は抜かないけれど、ある程度の保存食として使える程度まで水分を抜いて作ります。
――天野
そうなんですか。私どもはかなり時間をかけて熟成させます。寝かせることで味が変わってくるんですよ。長い時間をかけて、逆に旨みが凝縮されていくんですね。中には10年ほど寝かせるものもあり、今も研究を続けています。汐うには日本の三大珍味の一つとも言われています。こちらではどのように作られているんですか?
――野中様
剥いたウニの身に塩を振って、水分を出すだけなんです。布やザルなどに入れて、塩を振って水分を丸一日かけて抜いていくんですよ。ムラサキウニでもバフンウニでも同じように作りますね。作り方は、ほぼほぼ一緒のようですが、天たつさんの汐うにのほうが、水分の抜き方という点で、しっかりと水分を抜いてあります。
――天野
ウニは浜によって味が違うので、私たちはブレンドをして使っています。
――平田様
そうなのですね。ムラサキウニは、これまではずっとミョウバンを使って出荷していましたが、これではいけないという話になりましてね。「本当の味を出さないと」といろいろ試行錯誤しているところです。
――天野
そうした取り組みが聞こえてきたからこそ、私はこちらに来させていただいたのかもしれませんね。

天然を越える養殖ウニ
――天野
今、育てられているウニについて先ほどお聞きしましたが、餌を調整することで、天然のアカウニと味の違いはありますか?
――野中様
やはり食べるもので味が変わってきますね。この地域には昆布が生えないのですが、養殖のウニには昆布を与えています。そのため若干の差はありますが、ほぼ天然に近い味と風味に仕上がります。
――平田様
逆に天然のウニは昆布を食べません。養殖では、つきっきりで餌を与えるので、ウニが非常に充実して太るんです。この場所は潮の流れが速いため、養殖には不向きとされていましたが、潮の流れのおかげか養殖特有の身の柔らかさがなく、身がしっかり締まってカチッとかたくて甘みが強いウニになります。このあたりの海は北風がきてものすごく時化(しけ)るからか、実際に身が硬くなることが確認されています。
――野中様
ほかの地域の養殖ウニを食べ比べたことがありますが、そのウニは柔らかくてベタっとした食感でした。
――天野
現在の生け簀の中にも自然と海藻が生えてきて、それをウニが食べていると考えると、天然のウニにはない昆布の旨みも加わるかもしれませんね。
――野中様
ウニではそこまで感じませんが、サザエに昆布を食べさせると、本当に昆布の香りがするほど味が変わりますよ。
――天野
養殖のウニは1年くらいかけて育てるようなイメージでしょうか?
――野中様
1年と3ヶ月ほどです。私たちの養殖のウニはほぼ天然の味と遜色ないんじゃないかと思っています。もちろん、天然ものの方が風味が少し強くて、甘みも若干あります。ただ、その天然ものもこれからはなかなか獲れる見込みがないんですよ。
――天野
本当に素晴らしいですね。甘みもあって、旨みもしっかりあって、いいと思います。
――平田様
私たちもいろいろ試してきましたが、今まで食べた養殖ウニの中では、このミョウバンを使っていないものが最高だと思っています。ある時、海に関わる仕事をされている方の奥さんに差し上げたら、「私、今まで生きてきて、こんな美味しいもの食べたことない」って言ってくれて。本当に嬉しかったですね。

“浜の個性”を生かす塩選びが重要に
――天野
私は日本中のウニを扱っているんですが、浜によって本当にウニの味が違うんです。それで、「汐うに」を作るときは、その浜のウニに合わせて塩も変えてるんですよ。まず試作してみて、「このウニにはこの塩が一番合うな」というのを一つひとつ決めていくようにしているんです。ですので、おっしゃるように、塩をもう少し工夫すれば、さらに美味しくなる可能性があると思います。
――平田様
私のところでは塩の使いこなしはできてないんですよ。10キロの塩をドンと買ってきて「塩してます」っていう話じゃなくて、もっと味にこだわって選ぶと全然味わいが違ってくるんだろうなと思ってます。消費者に販売となると甘塩じゃないと厳しいですよね。
――天野
今年、東京にも店舗を出します。そこで扱いたいと思っているのが、まさにこういう甘みのあるウニなんですよ。
――平田様
ムラサキウニは甘さで言うと、アカウニに比べるとどうしても落ちるところはありますよね。天野さんはいろんなところでウニを食べられていると思いますが、うちのウニはどうですか?
――天野
(試食して)美味しいです。獲れたてで、この潮の香り、磯の香りがまさにこの浜の香りだなと思いました。天然のウニになると、さらにその香りが濃くなるイメージでしょうか。
――平田様
今、うちではこのムラサキウニをどう処理するかということに頭を悩ませてるんです。やっぱり磯焼けの原因のひとつでもあるので……。
――野中様
うちのウニは、変に濃すぎる感じがないんですよ。甘ったるさがなくて、爽やかな甘みだけがふわっと残るというか。逆に、私たちは北海道のウニがちょっと苦手なんです。海の味があまりしないというか、なんというかベタッした感じがあって……。
もちろん北海道の方に言わせれば、「うちはその味に慣れてるから」とおっしゃるでしょうけどね。もうひと回り身が太ってくれたら違うんですよ。
――天野
時期によって味が変わってきますよね。水揚げが始まる“走り”の時期、それから中ごろ、終盤と、それぞれ味が違っている感じです。私の中では、走りの時期のウニって、味はとても良いというイメージがあります。ただ、まだ身が少ないというか。味の観点では、その時期のものってどうなんでしょうか?
――野中様
うちは漁を始める頃のウニは甘みがあるんですよ。一度、風味が落ちる時期がありますが、また、だんだん甘みも増して身の量も増えてくるような印象があります。味が抜けてくる時期になると生で出すことはなくなります。塩うにに加工することもありますけど、それ以降は扱いませんね。
――平田様
私が冷凍ものを好まない理由は固まって形が崩れてしまうことなんです。溶けてしまいますからね。先ほど話した養殖のウニにはアルコールを混ぜてないので、もう形なんて関係ないんです。
でも本当に良いものはひとつひとつがちゃんとした形でまとまっていて、スプーンですくったときにきれいな形のまま持ち上がる。その見た目の美しさこそが、やっぱり料理としても価値を持つと思うんです。
「よそにはないものを作ろう」と思って追求してきたんですがまだ始めたばかりでして。でも、私たちは全国でも先駆けてアカウニの養殖に取り組んできた地区なんですよ。もう30年、いや50年近くでしょうか。その間、低水温の影響などで、何度も壁にぶつかってきました。それでも試行錯誤を重ねて、低水温に強いウニの開発に取り組んできたんです。
――天野
このウニは本当に唯一無二の味だと感じています。食べた後の余韻というか、すごくクリーミーな口当たりが残るんですよね。
――平田様
私も、これを食べたとき「美味い」と思いました。ただ、冷凍してしまうと、やっぱりどうしても風味が少し落ちますね。保存のための塩分もわずかなので、保存期間は1週間から10日程度しか持たないんですね。あまり長く置いてしまうと、色も変わりますし、匂いも出てきてしまいます。空気に触れると、開封後はどんどん色が黒ずんできますね。保存性を高めるという意味で、冷凍した塩水パックが一番自然な味を保てると思います。

塩で引き出す、ウニ本来の美味しさ
――天野
ウニの味って、浜によって本当に違うんですよ。だから、ウニに合わせて使う塩もすべて変えてるんです。こちらのウニは今の状態でも十分美味しいんですが、水分を抜いて少し凝縮したらどうなるのかすごく楽しみで仕方がありません。
――野中様
これは大体、水切りの状態が24時間ぐらいなんですよね。でも、塩水パックで出荷すれば、業者さんが自分の好みに合わせて加工できますし、そういう使い方もできます。もっと抜けばさらに味が濃くなると思いますよ。
――天野
東京・日本橋にある三越百貨店に出店させてもらうことになりました。本当に、味に厳しい、いわゆる“口の肥えた”お客様がたくさんいらっしゃる場所ですので、そういう方々にぜひご紹介したいと思っています。自信を持ってお伝えしたいですね。
――野中様
場所によって味は本当に全く違いますからね。どうしても「九州のウニの方が味がいい」と言われることは多いですね。
このウニをもっと多くの方に食べてもらおうと、毎年マルシェで販売をしているんです。ウニはどうしても簡単には買えないものなので、近くに住んでいる市民の方々に安く味わってもらえるよう、自分たちで仕入れて販売会を開いているんです。販売も殻付きのウニをその場で割って、「そのまま食べてください」とお出しするんです。かなりお得に出していましたよ。
――天野
そのように地元のウニの良さを伝えていくというのは、本当に価値のあることですね。
――野中様
はい、少しでもこの魅力を広めていければと思っています。知ってもらえるだけでも、すごく意味があると思うんです。せっかく一生懸命に育てて、うまく仕上がったウニでも、ミョウバンに漬けて板に並べると、やっぱり味が変わってしまう。それがどうしても嫌で、ミョウバンを使うようになったら養殖する意味がない。本物の味を届けたいという思いがあるからこそ、今も試行錯誤しながらやっています。
――天野
そういうお話を今回お聞き出来てすごく嬉しいです。こちらのウニを初めて食べたとき、「これだ」と思いました。雑味がなく、純粋にウニそのものの旨みが感じられる。ミョウバンを使わない選択や、生産者の方々の丁寧な仕事ぶりが、この味を支えているのだと実感しました。ウニを育てる人たちに耳を傾けて、私たちも“本物の味”を正しく伝えていく責任があると、あらためて感じました。本日はありがとうございました。
2025年3月訪問



