―お話を伺った方―
宮内 様

10年越しの養殖プロジェクト
――天野
遠賀(おんが)地域で獲れるウニは、バフンウニが中心ですか?ムラサキウニも獲れますか?
――河村様
はい、バフンウニが中心です。現在、バフンウニの漁期はかなり限られています。
数年前までは、私たちも早めにウニを獲っていたのですが、やはり早すぎると身が入っていません。そこで2023年には「身入りの良い時期まで待ってみよう」と方針を変えました。2024年も同じように、しっかり身が太るまで待ってから漁を始めようと考えています。いかに効率よく、良い状態のウニを獲るかが大事です。
現在、実際にウニ漁を行える海士さんは2名しかおらず、加工もそのお二人に限られています。養殖は行っていますが、これは共同作業であり、加工には至っていません。私個人としては、ウニを加工して塩水パックにしたいと考えています。漁師さんたちのやる気スイッチを探しているところです(笑)
――天野
やる気スイッチが見つかるといいですね。高水温に強いとされているムラサキウニですが、バフンウニと同じく漁獲量が減っているのでしょうか。それとも、ある程度は維持できているのですか?
――河村様
ムラサキウニは繁殖力が高いのですが、海士さんが2人しかいないため、ウニの増加に追いつかない状況です。これが磯焼けの負のスパイラルを生んでいます。ウニを獲らないと海藻が食べ尽くされてしまい、結果として商品価値のあるウニも育たなくなるのです。私たちが養殖に取り組み始めたのは、「漁師さんを増やしたい」という強い想いからです。この環境を維持できるうちは、ここで活動を続けたいと考えています。
しかし、新しく人を迎え入れるには多くのハードルがあります。特に今は資源が減っているため、「新しく入っても仕事がないのでは」という声もあります。また、「船を持っていないのに、どうやって生計を立てるのか」といった現実的な問題もあります。そこで先代の代表と話し合い、ムラサキウニの養殖事業を始めることとなりました。これは私としては10年来の悲願で、2021年ごろから養殖事業を本格的にスタートしました。
――天野
そんなスケールで考えられていたのですね。頭が下がります。

「希少性」が武器、同時に加工と販路の模索
――天野
養殖は、現在はどのような状況でしょうか?
――河村様
現在は、ウニを原体(殻付きの状態)のままで管理しています。今年からは、筏(いかだ)を2期に分けて運用する形にしました。今の課題は販売ルートの確保です。現状では、養殖したウニを福岡県の水産高校に提供し、加工実習の素材として活用してもらっています。今お見せしているのが、その養殖ウニです。ウニには色味の良いものも悪いものも混ざっているので、悪いものは選別して除いています。

――河村様
私がここに来た頃、この地域では「バフンウニはもう獲れない」と言われていましたが、実際には、60グラム入りの瓶詰でアルコール漬けのウニを販売していたんですよ。バフンウニは非常に希少ですから、その価値をしっかり伝えれば、もっと高く販売できる可能性もあると考えています。
――天野
おっしゃる通りです。バフンウニはとても希少性が高く、他の地域ではなかなか獲れません。だからこそ、しっかりと価値を伝え、評価される形にしていくことが大切ですね。
――河村様
価格だけで全てが決まるわけではありませんが、一方で、価格が大きな決め手になる場面もありますよね。私もこの業界に10年以上いますが、そのバランスは本当に読みにくいと感じています。
――天野
現在の養殖ウニでも、しっかり加工して商品化できれば、一定の収益は見込めると思います。丁寧に剥いて、業者が買い取りやすい形に整えていただければ買いたいという業者はきっと出てくるはずです。

天然に勝てるか? 養殖ウニが抱える餌の課題
――天野
実は今、日本全国を巡って、「日本の海の多様性」をテーマに調査をしています。特に興味を持っているのが浜の味の違いが生まれる理由です。昨年は北海道を一周し、各地で海水を味見したのですが、地域によって本当に味が違うんです。これは非常に面白い発見でした。
――河村様
「浜によって味が違う」という感覚、わかります。
――天野
ウニの味に最も影響を与えるのは「何を食べているか」だと思いますが、もう一つ大きいのが「海水の味」だと考えています。その海水の味も、さまざまな要因によって変化します。
一つは、海流、陸から流れ込む川の水や伏流水が海水と混ざり合う「ブレンド割合」でしょうか。それから、海の地形も大きく関係していると思います。砂浜と磯場では、同じ海でもまったく味が違うんですよ。隣接していても、磯場は有機物やプランクトンが多く、ウニの味が濃くなったり、磯の香りが強く出たりするのだと思います。ウニが岩場に付着していることで、その場所特有の香りをより強くまとう、そんな効果もあるのかもしれないと思っているところです。
――河村様
私たちはあまり深く潜れないため、漁は水深3メートルより浅い場所で行っています。そのあたりに生えている海藻が、ウニの主な餌になります。

――天野
水深1メートルから3メートルの浅い場所では、確かに生えている海藻の種類も限られてくるでしょうね。養殖ウニと天然ウニでは、味の違いを感じますか?
――河村様
はい、やはり違います。正直に言って、天然にはかないません。
――天野
天然のウニがさまざまな海藻を食べていることで、その味わいに複雑な味わいが生まれるのだと思いました。しかし、「育てる漁業」、つまり養殖では、天然と同じように多様な餌を与えるのは非常に手間がかかりますし、現実的に難しいのが現状です。福井でも同じで、天然のような環境を再現するのは手間がかかります。
私は、養殖は単に天然ウニの代替ではなくて、むしろ、理想のウニを育てる活動であると思っているんです。天然を超えるようなウニを作り出すために、餌の開発ができたらと考えています。理想的なウニの味を作り出せるような餌を開発できれば、養殖ウニの可能性は大きく広がるでしょう。ただ、現状ではその餌の確保が難しいという課題もありますね。

――河村様
時化(しけ)になると、海藻が浜に打ち上げられるんです。それを拾い集めて乾燥・保管するのが、実は一番効率的でコストもかからない方法だと思っています。ただ、その作業は重労働なので、なかなかやり手がいないのが現実です。
――天野
福井の場合、打ち上げられるなんてそれほど多くないんです。むしろ、拾い集めるだけで必要な量が確保できる状況なら、それはとても恵まれていると思います。 わざわざ潜って採集するのは、やはり無理がありますから。
――河村様
今年はなんとか大勢を巻き込みたいと思っています。一人でできる量には限りがありますから。現在は区画漁業権がまだ出ておらず、県と連携して試験操業・試験研究の段階です。昨年も県庁の水産部の方に手伝ってもらい、6人ほどで海藻を拾ってもらいました。
水温が低い時期はウニの活性が下がるため、餌を与えていません。活性が下がっている時に餌を与えると、食べ残しが水質を悪化させてウニが死んでしまうからです。そのため、今は手をつけていません。
前年はワカメのみで育ててみたのですが、個人的に少し「えぐみ」や「苦み」を感じたんです。そこで県の方と相談したところ、県もその一点だけを研究しているわけではないので断定はできませんが、「いろいろな種類を試してみてはどうか」とアドバイスをいただきました。単一の餌に限定せず、多様な餌を試すようにしています。
――天野
とても丁寧に取り組まれていて、頭が下がる思いです。餌の与え方ひとつとっても、ウニの状態や水温を見極めて、きちんと管理されているのが伝わってきました。おっしゃる通り、多様な餌を与えるというのは、ウニにとっても自然に近い環境なのかもしれません。地域全体で品質の高いウニづくりが進んでいきそうですね。貴重なお話、ありがとうございました。
2025年3月訪問



