田辺酒造様

手間を惜しまない、お互いに200年先を見据える品質の継承

秒単位で調整する要の作業が品質につながる

 

──田辺酒造様
当社は明治32年(1899年)創業で、代々岩手から南部流の杜氏(とうじ)を招いて農閑期の秋から春先にかけて酒造りを行ってきました。

──天野
現在は田邊さんご自身が杜氏をされていますが、前杜氏が引退されてから何か変えられた点はありますか?

──田辺酒造様
前杜氏に教わった昔ながらの酒造りを継承しつつ、今の若い方や日本酒初心者、海外のお客様に向けて、香りが華やかなタイプや、やや甘めのお酒を少しずつ仕込むようになりました。ラインナップを増やし、それぞれの特徴を活かした酒造りを心がけています。

 

──天野
私も日本酒が大好きでして、もともと「汐うに」という酒の肴を扱ってきた家の宿命といいますか(笑)、自然とお酒を楽しむようになりました。
そんな酒好きが飲んでも満足できますし、またこれから日本酒に親しむ方──例えば女性の方にも喜ばれるようなお酒を造っていらっしゃる印象です。本当におっしゃる通り、香りが華やかでスッと飲めるのに、しっかりとお酒としての芯もある。あの味わいは、どういうお酒なんでしょうか。

 

──田辺酒造様

日本酒の原材料は米・麹・水だけですが、その中で最初に行う「米を洗う作業」が一番の要だと思っています。うちでは10キロずつザルに取り、「限定吸水」という方法で水に浸けます。ストップウォッチを持ちながら、その日の気温や水温、米の水分量を見極め、秒単位で浸漬時間を調整しています。これは伝統的に一番こだわっている工程で、以前は高級ラインナップだけでしたが、今はすべてのお酒にこの方法を採用しています。

──天野
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キロずつ量り、秒単位で調整するのはすごいこだわりですね。昔からそういうやり方をされてきたんですか。

 

──田辺酒造様

そうですね。酒造りは逆算の作業で、最終的なお酒のイメージから、麹造りも含めて工程を組み立てます。その中でも米洗いは設計の要であり、毎年違う米の状態に合わせて、目指すお酒に近づけています。

──天野

「このお酒を本当に楽しんでくださる方」のために醸すという信念を大切にされているのだと感じます。天たつも似たような感じで、扱っている汐うにも大量生産できません。バフンウニと塩だけで作るので、原料の確保も限られています。それでも「絶対に喜んでもらえるものを」と思ってずっと作り続けています。

 

私事ですが、先月社長になりまして、父が守ってきた品質をどうやって200年先まで繋いでいけるか、日々考えているところです。やはりこだわった商品というのは、手間も時間もかけて作られるものなんだと改めて感じています。

 

 

伝統の袋吊りで、雑味のないクリアな自然の雫を醸す

 

──天野

『大吟醸別誂え袋釣り雫酒(しおん)』は本当に感動しました。すごく味が濃厚で、しかも香りが華やかですよね。これはどういうお酒なんでしょうか。

 

──田辺酒造様

まず大きなこだわりは絞り方です。通常は「槽搾り(ふなしぼり)」といって、酒袋を重ねてゆっくり圧をかけ、50時間ほどかけて酒と酒粕を分けるのですが、この「袋吊り雫酒」はさらに手間をかけています。

袋に7リットルほどのもろみを入れてひとつずつ吊るし、たらり、ぽたりと自然に落ちてくる雫だけを18リットルの斗瓶(とびん)に集めるんです。生のまま低温で熟成させ、味と香りのバランスが整ったと判断したときに一度だけ火入れをし、熟成する手間をかけています。雑味がなくクリアなお酒をダイレクトに味わっていただきたいという思いから生まれました。

 

これを作ろうと思ったのは、私自身が試飲会や対面販売でお客様と接する中で「ひと手間加えて良さが引き立つ美味しいお酒を飲んでいただけたら」と思ったからです。

 

──天野

袋吊りは鑑評会出品酒に使われる特別な製法だと伺っています。特別な場でしか味わえなかったものが市販で楽しめるようになったのですね。

 

──田辺酒造様

基本的に、この方法は「鑑評会」に出品するお酒に使うやり方なんです。市販酒にはあまり使いません。作業自体は行わない場合もあります。市販用として「料理と一緒に楽しんでいただける雫酒」を仕込みました。どうしても腰痛とかの負担が大きくて。今はボタンひとつで圧搾できる機械もありますから、そちらのある蔵元に移ることも多いですね。そこがネックなんですけど、うちの伝統的な搾りはやっぱり袋搾り。ここは変えずに続けていこうと思っています。

 

 

少量生産のこだわりが生む酒、そして肴との最適な調和

 

 

──天野 
天たつの「汐うに」を召し上がったことはありますか?

──田辺酒造様

あります。前の杜氏が搾りたて原酒が出来上がった時や、お客様が来た時に熱燗と合わせてちびちび楽しんでいました。引退後も持っていくと非常に喜ばれ、重宝しています。

──天野

私は汐うにが日本酒の女房役になれると思っています。塩気と磯の香りを感じたあとに飲むお酒は、より美味しく感じられます。私もお酒が好きでよく飲むのですが、ずっと同じ味を飲み続けていると、ふと口を変えたくなると思うんです。

 

本当に酒好きな人は「塩をなめる」と言いますけれど、その代わりに汐うにを少し口にしてみる。すると、塩気と磯の香りを感じたあとに飲むお酒が、より甘く、そして美味しく感じられるんです。先ほどおっしゃった、燗酒と合わせるのは何か理由があるんですか?

 

──田辺酒造様

汐うには風味も旨味も強いので、燗にすると日本酒が少し甘く感じられるんです。私はその相性が特に好きで合わせています。

──天野
冷酒と合わせるのも好きなんですが、汐うには面白いもので、冷凍しても塩分が効いているので凍らないんですよ。少し硬くなるくらいで。汐うには冷凍・冷蔵・常温で味や香りが異なり、常温に戻したときの香りや甘みが冷たい状態とは全然違う。お客様にも「冷蔵庫や冷凍庫で保存して、食べるときは常温に戻してください」とお勧めしています。温かいお酒と合わせると甘く感じるのはそのためで、そうした楽しみ方を広げていきたいです。

私も11代目となり、天たつを200年先へ繋ぐために日々考えています。ご先祖のおかげで今があるわけですが、次の100年、200年に向けてどう残していけるか。私に何ができるか。田邊さんご自身の目標や夢をお聞かせください。

 

──田辺酒造様
うちは家族経営の小さな蔵ですが、大量生産は目指していません。酒造りについては、大量生産を目指すのではなく、その土地のお米や県で開発された酵母を使って、地元に根ざした原材料などを使って商品化していきたい。できるだけ手間を惜しまずに造ることを大事にしたいんです。蔵には空調設備もなく、福井の冬の寒さをそのまま活かして仕込んでいるんです。人にはわからないだろうけど、見えない手間を惜しまずに、その想いをお酒に込めていければと考えています。

 

──天野

見えないところに手をかける――素晴らしいですね。

──田辺酒造様

私は凝り性なので、好きなことにはとことん時間をかけてしまうんです。来月11月から酒造りが始まりますが、この仕事はオンオフがはっきりしていて、仕込みの時期は蔵にこもりきりになります。今年は特に、これまでお客さまからいただいた声を活かしながら、新しいお酒のイメージを膨らませています。

今年からは造り手もオール30代になり、一気に若返りました。ただ、若さを生かしつつも、やることは昔ながらの伝統的なやり方で進めていきたいと思っています。12月ににごり酒を発売し、1月からは吟醸酒などの新酒をお届けできる予定です。

──天野

それは楽しみです。本日はたくさんお話を伺えて本当に勉強になりました。ありがとうございました。

 

2016年対談

 

蔵元情報

田辺酒造有限会社(たなべしゅぞうゆうげんかいしゃ)

910-1134 福井県吉田郡永平寺町松岡芝原2丁目24

https://echizenmisaki.com/

 

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