「変化できるものが生き残る」地酒の味を守り、世界へ挑む老舗の哲学
全量福井産 海の幸と合う酒
──天野
越の磯さんの酒蔵としての成り立ちを伺いたいのですが、創業地は越前海岸だとお聞きしました。
──越の磯様
はい。現在は福井市内にありますが、明治42年(1909年)創業で、110年ほどになります。創業地は海辺の越廼(こしの)という珍しい場所です。
──天野
どのような経緯で現在の福井市街に移転されたのでしょうか?
──越の磯様
戦後にこちらへ移転しました。一番の理由は物流です。もともとの場所は田舎で、お酒の販売、輸送、原料米の手配が大変だったためです。もう50年ほど前のことです。
──天野
50年を海辺で、その後の50年を市街でということですね。物流以外にも移転のメリットはありましたか?
──越の磯様
やはり「水」ですね。日本酒は米と水が柱ですが、福井市内の水は酒造りに適していました。
──天野
越の磯さんのお酒は、香りが華やかで、米の甘みと旨み、そして福井らしい辛口を併せ持つ、酒と肴の組み合わせに欠かせない素晴らしいお酒だと思います。2016年に天たつで紹介した『無の心』純米大吟醸も、香りと米の旨み、そして辛口のバランスが素晴らしかったです。このお酒についてご説明いただけますか?
──越の磯様
はい。『無の心』は全量福井県産のお米と地元の水で仕込んだ、本当の意味での地酒です。もともと海辺の蔵が発祥ということもあり、得意先には魚介類を扱う方も多く、海の幸と非常に相性のいいお酒だと評価をいただいています。
──天野
成り立ちからして“海の幸に合う酒”なんですね。ぜひ全国のお客様にもこの美味しい組み合わせを味わっていただきたいです。

海外への挑戦 料理と飲むことで良さを理解してもらう
──天野
以前から海外にもお酒を出荷され、評価をいただいていると伺いました。国内と海外のマーケットでは違いもありますか?
──越の磯様
10年ほど前から少しずつ輸出を始め、現在は香港やアメリカを含む10か国ほどに出荷しています。それぞれの国で料理も好みも異なりますが、あまり味を海外向けに合わせすぎないように気を付けながら、お付き合いを続けています。
当然、国や地域によって好みは大きく異なります。たとえば中国のように辛い料理が多い国や、肉料理中心の国もあります。その要望を伺いつつも、自分たちの味を守りながら、挑戦を続けているところです。
──天野
根底にある日本酒らしさを守りながら、場所や人に合わせていくということですね。
私ども天たつも今年で214年目になりますが、先代・先々代から「時代に合わせて商売を変えなさい」と言われ続けてきました。実際、天たつは30年ごとに少しずつ商売の形を変えてきています。ダーウィンの進化論ではありませんが、「強いもの」「賢いもの」ではなく、変化できるものが生き残るというのは、まさにその通りだと感じます。世界の皆さんに受け入れられているのも、そうした柔軟さがあってこそなのかなと、今のお話を伺ってすごく納得しました。ぜひ海外でのお酒も味わってみたいですね。
──越の磯様
現地の料理と一緒に飲んでいただくのが、お酒の良さを理解してもらう一番の方法だと思います。
──天野
私も以前は日本酒が苦手で、東京の学生時代に飲んだときは、いわば“ノリで飲むお酒”で、酔うために飲んでいたため、後悔しか残らない──それが私の日本酒のイメージでした。福井の夏のお酒に出会い、「日本酒ってこんなに美味しいのか」とイメージが一変しました。

地酒の基本は日常に寄り添う酒。地元米の良さを大切にする
――天野
天たつの汐うにと一緒に召し上がったことはありますか?
──越の磯様
もちろん、昔から食卓に当たり前のようにありました。もともと海辺の生まれなので、常に冷蔵庫にありましたね。ただ、県外の方に汐うにをお持ちしたとき、食べ方を知らないことに驚いたのを覚えています。
──天野
私も東京に出るまで、汐うにが福井にしかないものだと知りませんでした。この味わいや価格の価値は、分かる方にしか分からない。だからこそ、私たちの役割は「その価値をしっかり伝えること」だと思っています。
最後に、「越の磯としての理想のお酒」「これからのお酒の未来」、そして世界への展開について夢をお聞かせください。
──越の磯様
大それたことは考えていません。基本は地酒というスタンスを守りたい。地元のお米を大切に使い、その味わいを感じてもらえるお酒を造りたいです。特に海辺のお客様が多いので、魚に合うような辛口で、お米の旨みがあり、日常に寄り添うお酒を目指しています。海外展開においても、大きな変化ではなく、少しずつ各国に合うよう工夫をしていきたいと思っています。
──天野
キーワードは「地元のお米の良さを伝える」こと。福井は酒造好適米の産地でもあります。そしてお米の甘みや生産者さんとのつながり、そこが大事になってくるわけですね。
──越の磯様
そうですね。福井は酒造好適米の産地でもありまして。特に勝山や大野、美山といった山間部では、その田んぼで作られるお米の半分くらいが酒米になるんです。そうした地域にある酒蔵ですから、そのお米を使いながら酒造りをしています。
──天野
私どもも同じように、福井のおいしいものを全国、そして世界に届けたい。福井のお酒を通じて、同じような思いを形にされているのだと感じ、心からうれしく、頼もしく思いました。本日は本当にありがとうございました。

2016年対談
蔵元情報
株式会社越の磯(かぶしきかいしゃこしのいそ)
〒910-0016 福井県福井市大宮5-8-25
http://www.j-brewery.com/



