地酒と汐うにに込められた「守り継ぐ」使命
豊かな水と寒の気候が育む、宿場町の酒文化
──白駒酒造様
当社は酒屋に加え、明治の頃から郵便局も営んでいます。酒屋は古くから続いており、古い酒札の記録から、元禄10年(1697年)頃には酒造りをしていたと推測されます。郵便局は、ここが国鉄の町で駅もあり、必要だったためです。
──天野
この町に来るのは初めてですが、街並みを見て不思議な魅力を感じ、酒蔵が4社あるとうかがいました。もともと宿場町だったのですね。
──白駒酒造様
はい、昔は商家や庄屋、多くの酒屋がありました。この地域は水が良く、特に酒造りに適した冬の寒さという気候条件に恵まれています。
──天野
まさに、この風土に育てられて今がある、ということなんですね。
──白駒酒造様
4社それぞれ味が違います。最近はどの蔵も、濃厚な味わいのもの、軽やかな口当たりのもの、といった独自の味を出した酒を造り、蔵ごとのイメージが異なっています。
昔は納税酒として京都・伏見方面への桶売り(酒を桶単位で取引する方法)が多かったのですが、今は当社も含めて消費者に直接販売することが増えています。この変化が、各社が独自の酒造りをするようになった理由だと思います。
──天野
同じ水で作っても、杜氏さんが違えば味が全然違いますね。先日いただいた白駒さんの純米大吟醸酒、とても美味しかったです。あれは富山の杜氏さんが造られたんですよね。
──白駒酒造様
はいはい、その通りでございます。ただ、私自身は「能登流」とか「南部流」といった呼び方、詳しくはよくわからないんですけれども、現在は一般的に「能登流」と呼ばれていますが、うちでは石川県の能登の杜氏さんにお願いしていました。
昔は南部(岩手)、新潟、丹波(京都・兵庫)、南越前町(福井)にも杜氏がいましたが、今は皆さん高齢化で、大手の蔵の杜氏さんもほとんど引退されていると思います。

水と人が織りなす「白駒酒造」の味
──天野
先日いただいた白駒さんのお酒ですが、私は毎日お酒を飲んでいるんですけれども、なんと言いますか、独特の「土地の香り」とでもいうのでしょうか。うまく表現できないのですが、その土地ならではの香りを強く感じて、今まで飲んだことのないお酒でしたね。
──白駒酒造様
「能登流」と呼ぶのは少し変かもしれませんが、能登の杜氏が金沢酵母を使って仕込んでいます。他の蔵も同じ酵母を使っているのですが、何が違うのかはっきりとはわかりません。ただ、それが「能登流」なのでしょう。
それと、やはり水だと思います。同じ今庄の水でも谷によって少し違うことがあるので、味に差が出るのかもしれません。さらに大きいのは「造る人」です。酒に限らず、どんな商品でも、造り手の気性や気持ちが必ず表れます。天たつさんも同じでしょう。その手に込められた思いや心配りが形になって、初めて商品として仕上がる。そういった面で各社違ってきますし、うちにはうちなりの酒の作り方があります。歴代の杜氏さんたちが、いろいろ学んで工夫してくださったおかげだと私は思っています。
──天野
実はこの白駒さんのお酒には、私の知人がとても強い思い入れがありまして。その方はもともと名古屋で仕事をしていて、福井の実家を継ぐつもりはなく、名古屋で仕事を続けると決めていたそうなんです。ところが、その決心を変えたのが、白駒さんのお酒だったんです。
──白駒酒造様
なんと…どうしましょう。
──天野
詳しい経緯までは聞いてないのですが、すごく迷っていた時期に、師匠から「一度、地元に帰って一人で酒を飲んでみろ」と言われたそうです。それで帰って飲んだのが白駒さんのお酒だった。そこで「なんて美味しい酒が福井にはあるんだ」と感じた瞬間に、福井に戻ろうと決めたらしいんです。食べ物やお酒が人生を変えることもあるんだなと、すごいことだと思いました。
──白駒酒造様
知人の方のエピソード、ありがたいことです。今、酒造りで最も大事にしているのは消費者の皆さんの声です。造り手の思いと飲む人の気持ちが合わさって、本当に良いお酒になるのだと思います。
──天野
作り手と飲む人の気持ちが重なって一つのお酒になる。美味しいお酒とは、そういうものだと私も感じますね。

伝統の味と食卓の記憶を未来へつなぐ使命
──白駒酒造様
いただいた汐うに、本当に懐かしかったです。小さい頃はあったかいご飯にのせて食べていました。今では贅沢ですが、あれ以上に美味しいご飯のお供はありませんでした。昔から魚介業者が来ており、今回天たつさんの汐うにをいただいて、「昔なじみの本当のウニに出会えた」と思いました。
──天野
この40年くらいで、福井で獲れるウニの量は10分の1以下になっています。データにも出ており、福井のウニは本当に獲れなくなっています。
──白駒酒造様
そうですか…。今、ラベルには「国産」と書いてあっても、実際には韓国から入っているものも多いですよね。国内産は贅沢品なんですけど、やっぱり食べたいですね。
──天野
天たつでは韓国産は取り扱っていませんが、福井の食卓からウニが消えてしまうかもしれません。江戸時代から続く食べ物ですが、食べる人は減っており、皆の記憶からなくなってしまうことを避けたい。“汐うに”を考案した家に生まれた以上、守っていくのが自分の役目の一つだと思っています。
──白駒酒造様
そのお気持ち、よくわかります。ウニも酒も同じで、これからは本当に難しい時期に入ってきています。消費が減り、若い人もあまり飲まなくなりました。昔ながらの造りを大切にしながらも、今の時代に喜んでいただける酒造り、いろんな工夫をしていかなければならないと思っています。
──天野
今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。
―白駒酒造様
とんでもないことでございます。若いご主人様とこうして対談させていただけて光栄です。貴重な機会をいただき、本当にありがとうございます。

2014年対談
蔵元情報
白駒酒造合資会社(はくこましゅぞうごうしかいしゃ)
〒919-0131 福井県南条郡南越前町今庄82-24



