真名鶴酒造様

「もっと自由でいい」酒の価値と未来。変化と柔軟さが鍵になる

『福一』に込めた初心と杜氏継承の覚悟

 

──天野

真名鶴酒造さんの『福一』というお酒を手に取りましたところ、驚きました。ラベルがとても斬新ですね。真っ白で手触りもよいといいますか。

 

──真名鶴酒造様

このお酒は、2017年の品評会で1番を受賞したことから、『福一』と名付けました。私自身、今年で杜氏(とうじ)になって19年になりますが、酒造りは気温や環境が毎年異なるため、常に「一年生」の気持ちで臨んでいます。

 

ですので、仕込みが始まると心を真っ白にして向き合いたい――その想いを込めて、パッケージにも白を基調としたデザインを採用しました。
この『福一』のラベルは、福井県今立の和紙問屋・杉原商店様によるデコ和紙(越前和紙に凹凸をつけて文字や絵を表現したもの)で仕上げています。

 

初めて社内で披露した際には「真っ白すぎて文字が見えにくいのでは」との声もありました。しかし、逆に見えにくいからこそ、近づいてじっと見てもらえるという良い点もあり、今ではこのデザインにして良かったと思っています。

 

──天野

真名鶴酒造さんの酒蔵の歴史を教えていただけますか? 天たつと同じく江戸時代からの歴史があると伺いました。

 

──真名鶴酒造様

江戸末期、私の先祖は真名川の上流に暮らしながら酒蔵で酒造りに携わっていました。その仕事ぶりが高く評価され、当時の酒蔵の主人から酒造りを引き継ぎ、5代前の当主から本格的に酒造りを始めることになりました。

「真名鶴」という酒蔵名は、先祖が暮らしていた真名川、そして真名姫伝説に登場する鶴にあやかって名付けられたものです。

 

──天野

酒蔵のお名前にそのようないわれがあったのですね。ご主人はどのように酒造りに関わられたのですか?

 

──真名鶴酒造様

私が蔵に入ったばかりの頃、父から「これからは冬に泊まり込みで酒造りをする杜氏はいなくなる。だから自分たちで造らなければならない」と言われ、他の酒蔵で修行を積みました。そして10年前から、自らの手で酒造りを始めています。

 

当時、蔵の主人自ら酒を仕込むことは福井では珍しいことでしたが、私は東京農業大学で学んだ知識と修行の経験があったため、臨むことができました。その結果、酒造りを始めた最初の年に、金沢で開催された日本酒品評会で賞をいただくことができたのです。

杜氏に任せていた頃は賞に縁がありませんでしたが、あの時は「真っ白な気持ちで酒を造ろう」という初心を貫いたことが良い結果につながったのだと思っています。

 

──天野

杜氏を自ら引き受けるという覚悟が素晴らしいです。そして初志貫徹と申しますか、その想いがお酒にも表れていると思います。その中でもお酒のこだわりをお聞かせくださいますか?

 

──真名鶴酒造様

当蔵の酒は「きれいで飲みやすい」とよく言われます。香りが強すぎると食事に合わせにくく、長く楽しむのも難しくなります。そこで、食事とともにじっくり飲める酒を目指し、香りが穏やかな福井酵母で酒造りをしています。この福井酵母は、使い始めた当初は当蔵だけのものでしたが、今では県内の蔵で採用されるようになりましたね。

 

 

「もっと自由でいい」日本酒の世界観を広げたい

 

 

──天野
日本酒をもっと多くの人に楽しんでもらうために、どのような工夫や取り組みをされていますか?

 

──真名鶴酒造様

酒造りの世界では「伝統を変えないことが良し」とされる風潮があります。しかし私は、基本となる柱は守りながらも、それ以外の部分は柔軟に変えていかなければならないと考えています。もっと日本酒の世界を広げていくために。「和食には日本酒」と言われますが、近年では和食店でも必ずしも日本酒が選ばれるわけではありません。実際には、数あるお酒の中に日本酒もおかれているのが現状です。その背景には「日本酒は敷居が高い」というイメージがあるのかもしれません。

そこで当蔵では、より気軽に日本酒を楽しんでいただけるよう、炭酸で割って飲めるお酒や、りんごの香りを楽しめるお酒など、新しい試みを続けています。酒造りの芯がなければ「ただ変わったことをしているだけ」と思われてしまうでしょう。しかし、日本酒は本来もっと自由であってよい。私たちは日本酒の世界観を広げていきたいと考えています。

 

──天野

真名鶴酒造さまが従来の日本酒の枠を超えて、新しい可能性を広げていこうとしている試み、私ども天たつも同じ気持ちを持っています。

当店の商品を毎回お買い上げいただいていますね。本当にありがとうございます。天たつにはどのような印象をお持ちでしょうか?

 

──真名鶴酒造様

天たつという名前は、小さい頃から知っていました。私自身、子供の頃から汐うにが大好きで、よく食べていたものです。大人になってからは、毎年新しい商品が開発されるのを楽しみにしており、贈り物にも利用させていただいております。天たつの品は確かに高価ですが、それに十分見合う価値があると感じています。大切なお客様への贈り物は、必ず天たつと決めているほどです。差し上げた方が「美味しい」と喜んでくださるのが何よりの証です。先日、『雲丹あわせずわい蟹』を購入し、ご飯にのせていただきましたが、本当に美味しく感動いたしました。

 

──天野

大変ありがたいお言葉をいただき、心から感謝申し上げます。私たちは、ただ美味しいものをつくるだけでなく、贈る方・受け取る方、双方にとって特別な体験になるような商品をお届けしたいと考えています。

 

 

時代と共に変化する日本酒の姿

 

 

──天野

海外展開にあたり、日本酒をどのように紹介し、現地の方々に伝えているのでしょうか? 海外の市場に向けて、日本酒を広める上で大切にしていることをお聞かせください。

 

──真名鶴酒造様

海外で商品の紹介をしているとき、「ワインのような」という表現はとても伝わりやすいと感じました。商品そのものへのこだわりも大切ですが、飲む人々やその土地の文化に合わせ、変わるところは変わらなければいけないと考えています。

現在人気のある吟醸酒は、香りの良い酵母が技術の発達によって生み出されたことで広まったものです。つまり、お酒は常に時代に合わせて変化してきたのです。

ですから現在のお酒にこだわって「日本で好まれている酒だから海外でも同じように受け入れられるはずだ」という考えは乱暴だと思います。大切なのは、海外の人々が「美味しい」と感じられる酒を提案すること。海外でその土地の人達が飲めるお酒を提案し、根付いてきたらやがては本格的な日本の酒にたどり着いていただければ最高です。

 

現在、当蔵のお酒は東南アジアを中心に、アメリカや中国でも販売しています。ヨーロッパでの展開も目指していますが、代理店が新たな銘柄を増やすのは難しい状況で、なかなか実現には至っていません。

 

──天野

確かに、「ワインのような」という現地の方々にとって馴染みのある文化や言葉に置き換えることで、ぐっと距離が縮まるのだと感じます。私ども天たつも、汐うにを通じて福井の魅力を世界に伝えたいと考えておりますので、真名鶴様のお考えに深く共感いたしました。本日はありがとうございました。

 

2017年対談

 

蔵元情報

真名鶴酒造合資会社(まなつるしゅぞうごうしがいしゃ)

912-0083 福井県大野市明倫町11

http://manaturu.com/top.html

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