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先々代のおもいでから 5話目

2013.07.05
メディア掲載

創業から二百年を数える天たつ福井片町本店。

先々代にあたる天たつ九代目、天野吉朗の記事の切り抜きから、お話をご紹介いたします。

のれん百年
〈7〉

すべてを“手仕事”で

いい“うに”を作れば
客は自然に集まる

「練雲丹(ねりうに)は、泥雲丹の水分をとり、調味料を加えて練る。福井の名産」=小学館編、原色百科辞典=。

 

福井の練うには、全国的に有名だが、専門店は「天たつ」だけ。お客は県外が60%で東京、大阪などの大都市からわざわざ買いにくる。「昨年は夏場のうにを切らしましてね。お客さんから看板をおろせとどなられました」と主人の天野吉朗さん(五十三)はいう。生産は年間3㌧が限界。大丸や髙島屋などの百貨店からの注文も断わり、販売は自分の店だけにしているという。

店にはいると、正面に「旧藩爾来松平家御用達」という人間の背丈ほどもある大きな看板と、松平家御下賜の鵜の家紋がある。天たつの家宝。その看板の左側には「天皇陛下御料品」「御買上」「御献上」の三枚の看板が並んでいる。福井国体の植樹祭においでになった天皇陛下に福井の特産物として、うにを献上したときに「ほう、これが天たつのうにだな」と手に取ってごらんになったというエピソードもある。

 

天たつのが“のれん”を出したのは、文化元年(一八〇四年)で天野吉兵衞吉朗のとき。それまでは松平藩の商人(あきんど)として、福井産の商品を他藩に売り、他藩の産物を買ってくるという仕事をしていた。

当時、越前のうには、知多のこのわた、長崎のからすみと並んで天下の三珍として重宝がられたとか。幕末には松平春嶽や由利公正が手みやげとして使ったり、橋本左内の日記に天たつのうにの名が出てくる。

 

練りうには「うに」の卵巣の塩蔵品。うまい練うにづくりのコツは良質の「うに」と塩加減だという。

天草(てんぐさ)など、あまり大きくならない海草を食べているうにが脂肪質が多くて味が香ばしい。越前海岸は良質の「ばふんうに」がとれるところで、越前町から東尋坊の北、越前松島まで十三集落と先祖代々、取引をしている。とくに鷹巣海岸のが最高だという。

 

海女が水揚げしたうにを包丁で真っ二つに割り、卵巣を取出す。直径約三センチから四センチのうにで卵巣は小豆(小納言)の粒くらいしかない。しかも平均四〇%は使い物にならない未成熟卵があるので、うにがいかに珍品かがわかる。

卵巣を海水で洗い、アワビに貝殻の上にのせ、水を切る。この作業は雨が降ると中止になる。海水に真水が少しでもまじると、うにが死んでしまうからだという。うに漁の解禁は毎年七月二十日から八月二十日までの一か月間だが、仕事ができるのは正味十五日くらいだ。

水を切ったうにに塩をまけば練りうにはできるわけだが、塩が問題。うにの質によっても、天候によっても、使う塩の質と量をかえる。塩の種類だけでも、六種類使い分ける。「塩の味は掌でみるんですよ。にぎったときに手に甘く感じた塩が一番いいんです」と説明する。塩のまき方もコツがあり、掌に適量の塩をにぎり、指の間から塩をまく。すべて“手仕事”だけに「仕事が集中する夏場は、他の荒い仕事は控えます」と手を大事にする。

 

「おやじはえらかったですよ。社会のきびしさや、しきたりを教えるために十五、六歳の私を奉公に出したんですからね。しかも堅気の商人と違う水商売にですからね。あとで聞いた話ですが、天たつも調子が悪いらしいぞというウワサが流れたそうです」と先代を語る。

でっち奉公は、東京築地の割烹店「金扇」でした。新橋などの料亭に料理を出す一流の店で、ひたすら塩の使い方を“盗んだ”という。

六代目吉朗さんが、初めて、うにをなぶったのは昭和十五年、二十五歳のとき。小さいときから先代の仕事ぶりを見ていたし、東京で修業をしたので「何とかなるだろう」と思ったが売り物にできるようなうには一つも作れず「こんちきしょう」という思いだけが残ったという。

一人前になるには、やはり十年はかかった。その間、何度失敗してうにを足羽川に捨てたかわからないという。「いまでも“塩”はむずかしい。品質を向上させるためには努力しかありませんね。いいうにを作れば、お客さんは自然に集まってくるもの」といって“のれん”を守るコツを披露する。

 

うにの需要は年々順調に伸びているが、心配は原料のうにの供給。「福井臨海協業地帯ができると、うににも影響がでるのでしょうね」と顔をくもらせる。

しかし、跡継ぎの話になると、すぐ笑顔が戻った。天たつののれんを継ぐのは一人息子の吉壱さん(二四)。日大の哲学科を卒業、築地のかつおぶし問屋に修行に出ている。来年いっぱいで店に戻る予定。「帰ってきたら本格的にうにづくりを仕込みますよ」――。
=写真 創業は文化元年、名産越前うにの箱詰め(天たつで)

 

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